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野辺送りとは、どのような風習?

野辺送りとは、どのような風習?

 みなさん「野辺送り」をご存じでしょうか?

 野辺送りとは、葬儀における儀式のひとつですが、近年ではあまり見かけることがなくなりました。
 野辺送りの「野辺」とは、墓地や埋葬のことを指していると考えられています。土葬が一般的であった時代に行われていた儀式ですが、実際に見たことがないという方も、テレビや映画などで野辺送りの光景を見たことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。

 今回は、野辺送りの風習について解説します。

【目次】

■野辺送りとは?
 ・野辺送りの意味
 ・野辺送りの方法
 ・野辺送りの目的
 ・地方による野辺送りの違い
■現代の野辺送りの形
 ・野辺送りの名残
■海外の葬送における風習
 ・ヨーロッパ諸国における風習
 ・アジア諸国における風習
■形を変えて今も息づく野辺送り

野辺送りとは?

 まだ霊柩車の無かった時代、野辺送りは葬儀の後によく目にする光景でした。
 現代ではあまり目にすることがなくなった儀式である「野辺送り」について解説します。

野辺送りの意味

 野辺送りは、葬儀の後に葬列を組んで、ご遺体を埋葬場所まで見送る風習のことです。
 土葬が主流だった時代は、葬儀を執り行った後に、ご遺体を埋葬するために、親戚や地域の方が棺を担いで埋葬する場所まで運んでいました。また当時は、野辺送りを職業とする方もいました。野辺送りには、仏教や神道などの宗教の区別はなく、地域の風土や特徴に合わせて行われていました。
 日本各地において古くから根付いている神道では、死は穢れ(けがれ)とされており、ご遺体を埋葬地までどのようにして送るかは重要な問題でした。野辺送りは、ご遺体を守りながら厳かに送っていく、重要な儀式だったのです。ご遺体の扱いを間違ってしまうと、死者の穢れが近くにいる方に移ると信じられていた時代もあったほどです。
 野辺送りは、「野辺の送り」や「野送り」とも呼ばれており、野辺には文字通り「野のあたり」という意味があります。この場合の野辺は「埋葬」や「火葬」という意味で使われています。

野辺送りの方法

 野辺送りの参列者には役割があります。

 参列する方の先頭には、松明(たいまつ)か高灯籠(たかどうろう)を持った方が立ち、列を先導していました。松明や高灯籠には魔除けの効果があるとされています。
 次に、籠を持った方が続くのですが、籠の中には小銭や散華と呼ばれる紅白の紙吹雪が入っており、通り道に散らしながら歩きます。紅白の紙を振りまくことには、故人の魂をしずめて穢れを祓い(はらい)、地域に災害が起きないようにするという意味があります。
 次に、町内会の旗や弔旗、紙で作った蓮華花が続きます。その後ろから、枕飯や水桶、香炉などのお供物を持つお膳持ち、衆僧(衆徒)、導師(葬儀を執り行った僧侶)、お位牌持ち、天蓋持ち、棺桶、近親者の女性、一般参列者が続いていきます。
 「紙華」「飯」「水桶」「香炉」「位牌」「天蓋」の6種の具足を持つ役割の方々は「葬列六役」と呼ばれ、もっとも重要な役割を果たします。これらの役割は、故人の近親者が担いました。地域によって、これらの6種の具足を持つ方々と先頭の松明を持つ方を含めて「葬儀七役」と呼ぶところもあります。

 現在では、火葬設備がない山間部や離島などで、野辺送りの風習が残っているところがあるようです。また、一部地域では伝統行事として、火葬の後に野辺送りを行うところもあるようですが、土葬がほとんど行われなくなった今日においては、伝統的な野辺送りの風習そのものは衰退しています。

野辺送りの目的

 野辺送りの目的は「故人の魂をこの世に残さないようにするため」です。故人の魂が迷ってあの世から帰ってくることがないように、さまざまなしきたりがあったのです。
 例えば三度回りがその1つです。三度回りとは、出棺の際や土葬をするまでに棺を3回左にまわすことです。3回まわることで、故人の方向感覚を狂わせて帰ってこられなくするという意味があります。
 出棺時には、仮門を作りくぐらせるという風習があります。竹をコの字型に組んだ門を作り、棺が家を出た後にその竹の仮門にくぐらせて、門は燃やしてしまいます。こうすることで、死者の魂が家に戻ってこられないようにするのです。棺を運ぶ際は天蓋をさして日光を遮断し、道中は神社などの聖域を避けて通ります。これは、日常から死者の穢れを隠すという意味があるからです。
 野辺送りが終わったら、参列者はお風呂に入り、穢れを落としてから膳につくというしきたりや、お風呂に入った後に塩やみそを口にして、さらなるお清めとする地域もあるようです。

地方による野辺送りの違い

 野辺送りは、地方によってさまざまな形がありました。例を挙げると、山形県の松原では長男や喪主が白装束をまとい、棺を背負って運ぶという風習がありました。同じく山形県の矢柏では、駕籠(かご)に乗せて運ぶという風習がありました。
 九州地方の離島の一部では、野辺送りの際に小銭をばらまきながら歩く風習がありました。
 沖縄には「グソー道」と呼ばれる野辺送りのための道があり、引き潮に合わせて野辺送りを行う風習がありました。引き潮に合わせて運ぶ理由は、ご遺体が潮と共に迷うことなくあの世へ行けるとされてきたからです。

現代の野辺送りの形

野辺送りの形は、時代の流れによって変化しました。
土葬から火葬が主流になったことや、モータリゼーションの発達などが理由です。
ここでは、現代の野辺送りの形をご紹介します。

野辺送りの名残

 昔のような野辺送りを行っているところはごくわずかとなり、さまざまなところでその名残のみを残しています。

●金色の屋根(宮型)の霊柩車

 近年では霊柩車とわからないような形のものが主流となっていますが、金色の屋根がついている霊柩車があります。これは、野辺送りで使われる棺を納めて担ぐ輿を模したものです。

●白木の祭壇

 葬儀では、白木の祭壇の上に興を模した屋根飾りや葬儀の先頭に使われる提灯を模した灯籠飾り、一膳飯(枕飯)、団子や落雁などのお供え物、遺影、位牌が乗っています。葬儀で使われるこの白木の祭壇は、葬儀後に行う野辺送りで使うための道具を飾る台という意味も持っていました。野辺送りを行わなくなった今でも、白木の祭壇はそのまま使われています。

●出棺時、棺は血縁者が持つ

 出棺時は、血縁者が棺に手を添えて霊柩車へ向かう風習がある地域が今でもあります。故人の甥が棺を持つというならわしがある地域もあります。

●出棺時、葬儀場を出る順番に決まりがある

 喪主が位牌を持って最初に出発し、血縁の薄い方はなるべく最後に出る…などのならわしは、野辺送りの名残りです。

●位牌・遺影を持つ方を指定される

 出棺前に、あらかじめ葬祭品を持つ役を指定するのは、野辺送りの名残です。位牌は喪主が持ち、遺影は故人の配偶者が持つことを指定されることがあります。

●出棺後はほうきで掃く

 死は穢れとされているため、ほうきで掃いて穢れを祓います。これも野辺送りの名残です。

海外の葬送における風習

 ちなみに、海外のお葬送事情はどのようになっているのでしょうか。
 世界各地の文化や宗教に沿った形で受け継がれてきている、海外の葬送について、ご紹介します。

ヨーロッパ諸国における風習

 ヨーロッパでは、キリスト教の教えによって、故人は復活して天国に行けると考えられています。そのため、火葬をして肉体を燃やしてしまうことはタブーとされているため、土葬が一般的です。
 キリスト教の中でも自由度が高いプロテスタントの多い国では、火葬を選択する方も増えつつあります。近年、ロンドンを始めとする都市部においては、土地不足が問題となっており、土葬をするためには広い敷地が必要となるため、土葬から火葬へと移行しつつあるようです。
 環境先進国であるドイツでは、20~30年ほどで土に還る特殊なカプセルを棺として使用することが義務づけられています。
 ノルウェーでは、土に還る素材のものだけしか、お墓の装飾品として認められていません。

 このようにヨーロッパでは土葬が主流となっていますが、その中にも各国の特徴があります。

アジア諸国における風習

 韓国では、国教が儒教であるため葬儀を盛大に行うことや、立派なお墓を建てることを重要視しています。古くから土葬が行われてきましたが、近年は火葬を行うケースが増えています。
 中国では、葬儀は派手に行うことが主流となっています。ドラや爆竹を鳴らしたり、お金をばらまいたりと、厳かな日本の葬儀とは正反対といえるでしょう。中国も儒教の影響が強いのですが、故人のために盛大な葬儀を行うことで、故人への愛情を表現するそうです。

 他のアジア各地でも土葬を行うところが多いのですが、チベットの伝統的な葬送は「鳥葬」です。鳥葬では、まず僧侶が死者の魂を肉体から抜くためのお経を唱えます。魂が抜けた肉体は専門の職人が解体し、解体されたご遺体を鳥葬台と呼ばれる荒野に置きます。やがてハゲタカがやってきて、ご遺体がついばまれることで死者を弔います。鳥葬は「魂が抜け出たご遺体を天国へ送り届けること」を目的としています。

形を変えて、今も息づく野辺送り

 今回は、野辺送りについてご紹介しました。

 野辺送りは土葬が主流であった時代には、とても重要な風習でした。山間部や一部の島しょ部では今でも昔ながらの野辺送りを行っている地域もあるようです。しかし現代では、火葬をすることが一般的であることや、モータリゼーションの発達などから、違う形に変化して現在も息づいています。

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